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最高裁判所第二小法廷 昭和58年(オ)1567号 判決 1985年12月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

商法が、二三一条以下の規定により、株主総会を招集するためには招集権者による招集の手続を経ることが必要であるとしている趣旨は、全株主に対し、会議体としての機関である株主総会の開催と会議の目的たる事項を知らせることによつて、これに対する出席の機会を与えるとともにその議事及び議決に参加するための準備の機会を与えることを目的とするものであるから、招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であつても、株主全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において、株主総会の権限に属する事項につき決議をしたときには、右決議は有効に成立するものというべきであり(最高裁昭和四三年(オ)第八二六号同四六年六月二四日第一小法廷判決・民集二五巻四号五九六頁参照)、また、株主の作成にかかる委任状に基づいて選任された代理人が出席することにより株主全員が出席したこととなる右総会において決議がされたときには、右株主が会議の目的たる事項を了知して委任状を作成したものであり、かつ、当該決議が右会議の目的たる事項の範囲内のものである限り、右決議は、有効に成立するものと解すべきである。

本件において、原審の適法に確定したところによれば、(一) 被上告会社は、昭和四七年二月三日設立され、上告人が代表取締役に、訴外佃勇(以下「佃」という。)外四名が取締役にそれぞれ就任した、(二) 昭和四八年二月三日、右取締役六名の任期が満了したが、定款所定の取締役及び代表取締役の員数を欠くに至り、後任者が就職するまで上告人が代表取締役の権利義務を、佃外四名が取締役の権利義務をそれぞれ有することとなつた、(三) 被上告会社は、昭和五〇年六月、上告人から本件土地建物を賃借し、上告人に対し敷金八〇万円(以下「本件敷金」という。)を交付した、(四) 佃は、被上告会社の代表権を有しないにもかかわらず、被上告会社を代表して、昭和五一年六月一日、上告人との間で右賃貸借契約を合意解約(以下「本件合意解約」という。)したうえ、上告人に対し本件土地建物を明け渡し、同年七月二六日ころ上告人に到達の書面をもつて本件敷金を返還すべき旨の催告をした、(五) 被上告会社の昭和五六年五月三一日開催の株主総会(以下「本件株主総会」という。)は、これを招集する権限を有しない佃が役員選任決議等を会議の目的たる事項と定めて招集したものであるが、右会議の目的たる事項を了知して委任状を作成しこれに基づいて選任された代理人を出席させた株主も含め、被上告会社の株主一〇名全員がその開催に同意して出席し会議が開かれた、(六) 本件株主総会において、佃らを取締役に選任する旨の決議がされ、そのころ、右決議によつて選任された取締役により構成された取締役会において、佃を代表取締役に選任する旨の決議がされた、(七) 同じく右取締役により構成された昭和五八年三月一九日開催の取締役会において、佃のした本件合意解約及び本件敷金返還の催告を追認する旨の決議がされ、同月二二日被上告会社が上告人に対し右追認の意思表示をした、というのである。

右事実関係のもとにおいては、佃らを取締役に選任する旨の本件株主総会における決議を有効と解すべきものであることは、前記の説示に照らして明らかであり、したがつて、右取締役により構成された取締役会のした佃を代表取締役に選任する旨の決議並びに本件合意解約及び本件敷金返還の催告を追認する旨の決議は、いずれも有効というべきであるから、本件合意解約及び本件敷金返還の催告は、その効力を生ずるに至つたとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 大橋 進 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭)

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